6.約束

当サイトの他のお題小説と比べると、少し長めです。
ベル・イールで捕らえられたアトスとアラミスのところに、鉄仮面ズがやってきます。キャラも若干崩壊してる、くっだらないおふざけ話です。

薄暗く泥臭い場所に、アトスとアラミスは連れて来られた。周囲には、形もバラバラの石材と木材が散乱している。
アトスは敵に悟られないよう周囲を見渡したが、出口になりそうな場所は見当たらない。この状況を打破するのは困難そうであった。
アラミスは、無駄と知りつつ、縛られた手首に力をこめた。やはりというか、縄はしっかりと彼女の手首を捉えており、取れそうにない。
彼らの後ろには、敵が数名。前には、彼らの首領が立ちはだかっていた。鉄の仮面を身に付けた男は、そこにいるだけで、他者を圧倒する存在感を放っている。それは部下たちも感じている様子であり、周りの空気はピリピリと張り詰めていた。
ミレディーやマンソンの姿は見えない。もしマンソンがいたなら、捕らえられて自由を奪われている自分の姿を、いい気味だと笑い続けていたに違いない。そして、その屈辱に耐え切れていたかどうか。アラミスは、この場にマンソンがおらず安心するという、少し複雑な思いを抱いていた。

「アラミス」
くぐもった声が自分の名を呼んだため、アラミスは思考を中断させた。
この男と戦った事は何回かあるが、彼がこうして目の前に立ちはだかると、やはり圧倒されてしまう。その仮面の不気味さからだろうか。
「……」
鉄仮面が押し黙ったため、アラミスは眉をひそめる。それにしても、何故、自分の名だけを呼んだのか。
鉄仮面はじっとアラミスの方を見つめている様子であり、彼女の隣にいるアトスの事は、眼中にないようだ。そのアトスも、次に出る言葉を待っている様子であった。
「……約束を、守ってもらおうか」
「約束だと?」
鉄仮面の発した言葉に、アトスは不可思議な表情を見せる。それはアラミスも同じであって。
「悪党と約束など、した覚えはないが」
「ふざけるな!」
仮面の下から怒気を含んだ声を張り上げる。アラミスはその声と一緒に、何か低い音を聞いたような気がした。
「貴様、私の鍵を返すと、約束したではないか!ルイを救出した、その後に!」
「え……?」
少し高い声を出し、アラミスは口を開けた。
(鍵?処刑?)
「あ」
鉄仮面が発したキーワードと、彼女の記憶が結びついた。
鉄仮面を被せられたルイの処刑当日の日。マンソン邸に忍び込んで、鍵を奪った時に、鉄仮面に放った言葉。

『陛下の鉄仮面を外したら返してやる!』

アラミスの回想を打ち壊すように、再び響くは、あの低い音。
「ううっおあっっ!」
その音を押さえ込むように、鉄仮面は腹部に手を当てた。
「おかしら!」
「おかしらぁ!」
二人の部下が、鉄仮面のもとへ駆け寄る。彼を気遣い、いたわる様に、体を支えた。
部下に支えられ、鉄仮面は顔を上げた。仮面に覆われているので断言はできないが、どうやら自分は睨み付けられているようだなと、アラミスは感じていた。
「お……お前がちっとも鍵を返さないせいで……俺様は、俺様は……」
「アラミス、貴様のせいで、おかしらは食事が取れなくなったんだ!」
「あれからずっと、お腹を空かせているんだ!」
「栄養が足りないんだ!カルシウムが!」
銃士たちの後ろからも、声がした。怒りというよりも、悲しみを含んだ叫び声が。
「だから、以前よりも怒りっぽくなってしまった!」
「俺たちはすぐ殴られるんだ!」
「おかしらも可哀想だ!液体ばっかで、固形のものがずーっと食べられなくて!」
いっぺんに言われたため一つ一つの言葉を拾うことは出来なかったが、彼らの気持ちはアラミスによく伝わっていた。
彼らの声が止むのを待ち、再び鉄仮面が話し出す。
「そうだ……この、この仮面の、わずかな隙間から、なんとか栄養剤を流し込んでいる。だがっ!」
彼は"この"のところで仮面の目元と口元を指差していた。それから、首領はグッと拳を握り締める。
「吸い取ろうと口を尖らせても上手く口に入らず、アゴから首へダラダラと流れていってしまう事が多いのだ!冷たくて、気持ちが悪い!」
言い終えた時、彼の腹の虫は3度目の泣き声をあげた。その腹の虫を黙らせるように、鉄仮面は拳を腹部に当てた。少し痛かったのか、「うぐう」という声を出す。
それから、彼はアラミスに近付き、彼女の胸倉をつかみあげた。
「アラミス!」
笑い転げていたアトスも、友人のピンチにハッとなった。
「言え!あの鍵はどこだ!」
「鉄仮面……覚えておくがいい」
にやり、アラミスは不敵に笑ってから、続ける。
「"約束"は、破るためにあるんだ。私は約束なんて、全て破って生きている!なにが"約束"だ、片腹痛い!」
「おのれ!」
鉄仮面はアラミスを突き放した。手首を縛られているが、それでも彼女はなんとか体勢を整える。
「ならば、嫌でも言いたくなるよう、明日から貴様等をこき使ってやる!」
鉄仮面は、きびすを返してその場を去っていった。部下達は、再び銃士たちを連行する。
アトスは、もう笑ってなどおらず、呆然としていた。否、ぼーぜん、としていた。
彼もまた、思い出していたのだ。以前のアラミスと、先ほどのアラミスを。

『時がきたら話す。それまで勘弁してくれ』

『約束は、破るためにあるんだ』
『約束なんて、全て破って生きている!』
『なにが"約束"だ、片腹痛い!』

(それじゃあ……と、時は……アラミス……時は……)
来ないのか。
いつまで待っても。
劇場版まで待っても。

どうやら時は来ないらしい事を悟り、うなだれたアトスは、とぼとぼと連行されていく。
アラミスはそんなアトスの様子に全く気付かないまま、あの後鍵をどうしたんだっけと、ぼんやり思い返しながら歩いていた。

長い後書き
これじゃあ、50話で「(アトスとアラミスを)かまわん、処刑してしまえ」という鉄仮面の台詞に矛盾が出てしまいますね。
栄養剤がこの時代にあるかどうか知りません。空腹の割には元気いっぱいでしたよね鉄仮面。
しかし、コンスタンスのわら人形をあっという間に準備した方々ですから、合鍵ぐらいすぐ作れそうなもんじゃあないですか、とも思います…。
というか、鉄仮面のはルイのと違ってカギとか必要ないんじゃあないかと思います。いや、それ以前に、ルイのと全く同じカギを、しかも共有して使っていること自体がおかしい!
実際(?)のアラミスは、ちゃんと約束守るいい人だと思います(カギは渡さないと思いますが)。アトスも、ちゃんと格好良い人だと思います。 (2010.11.3)



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