10.香水
仇討ち後、お墓参りに向かう支度をするアラミスの一コマです。
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ドレスに袖を通すなんて、いつ以来だろうか。
当たり前だが、昔はいつも身に着けていた。腰が引き締まり、スカートがふわふわする感触、その感覚がとても新鮮に感じられて、そんな自分にくすりと笑ってしまった。
いつも後ろで縛られている金の毛先も、今日はゆったりと解放されている。鏡に姿を映しながら、2、3歩歩む。ああ、これではやはり男らしい歩き方だなと、アラミスは違和感を抱いた。
そして、丁寧に編まれた桃色の花輪も、大切に籠に入れる。花が傷まないようにと、昨夜郊外でひっそりと摘んできたものだ。
少女時代ですら、花を編んで遊ぶ事はあまりしていなかったが、それにしてはよく編めたものだと、アラミスは内心で自身を褒めてみた。
身支度をほとんど終え、アラミスは机上の香水に、その長い指を伸ばす。しかし、ふと手が止まった。
(―しまった)
ドレスも靴も、この後身につける帽子とベールも完璧に準備した。しかし。
(いつも使っている香水、か……)
そこまで頭が回らなかった。机上にあるのは普段使用している、男物の香水のみ。これから、およそ7年ぶりに、愛するひとのところへ向かうというのに。
つけない方が良いだろうか。
(……)
一呼吸置いて、再びアラミスの指は動く。しっかりと香水を手に取った。
そのまま流れるように、白い首筋にふりかける。いつも、しているように。途端に溢れる、馴染みの香りが心地よい。アラミスは、優しく小瓶を置いた。
久々に愛するひとのところへ行くのだから、きちんとした身なりで行きたい。
(でも、やっぱり、今の自分も見てもらいたい、かな)
悪戯っぽい笑みが漏れる。あの人は、驚いてしまうかもしれないけれど―いや、温かく笑ってくれるかもしれない。君らしいね、と。
間もなく日の出の時間だ。街は人気が少ないとはいえ、用心に越した事はない。アラミスはベールの着いた帽子をしっかりと被ってから、花の入った籠を手にし、軽い足取りでドアに向かった。
スカートを揺らし、美しい髪を躍らせながら。
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後書き
フランソワお墓参り出発前のアラミスの様子を考えてみました。アラミス…な、なんだか乙女ですね…。
独立した話として書いていますが、時系列としては『その酔いがさめる頃』の前です。(2013/3/21)
≪9.夫婦 11.動物(準備中)≫