28.ひざまくら

劇場版のその後。ジャン&カトリーヌのある夜の一コマです。

あたたかい部屋と、暖炉と、ベッド。
それは、あの冬の日と同じ。そして、一緒にいる人も。
ただ、違っていたのは―。


改まって、気恥ずかしそうに佇む息子に、カトリーヌは優しく微笑む。息子と目線が合うように屈みこみ、その小さな肩に両手を乗せる。
(あら……)
否、それは記憶のなかのそれよりも、ずっと大きくなっていた。驚きと喜びをかみ締め、息子の言葉を待つ。
「あのさ、一度だけでいいんだ。母ちゃんにお願いがあるんだ」
「なあに?言ってごらんなさい」
ようやく出会えた最愛の息子が、自分に何をお願いしてくれるのかと、カトリーヌはわくわくしていた。

耳まで真っ赤に染まったジャンは、温かくて優しい場所に、ゆっくりと頭を下ろす。
一年と半年前、パリを旅立ってからかなり長くなった髪に、大きな手が触れた。なんだかくすぐったい。
「こんなこと、恥ずかしいんだけどさ」
「まあ、恥ずかしがる事はないわ。お母さん、嬉しいわよ」
母の手は何度も、髪を撫でる。何度も、何度も。愛しみをこめて。
「だって、おれ、もう12になるんだよ」
「もちろん、覚えているわ。お前が生きていたら、12になるなあって、思っていたもの」
ようやく出会えた大切な人が、自分の年を覚えていてくれた。ジャンは、顔がにやけるのをこらえようとしたが、無理であった。
「……ジャン、大きくなったわね」
「どうしたの、あらたまって」
瞳をパチパチとさせる息子の上から、温かな声が降りる。
「昔よく、お前をこうして寝かせていたけれど。この数年間で、随分、重くなったのね」
「あっ、母ちゃん、重たいかい?」
慌てて起き上がろうとする息子の頭を、カトリーヌはそっと、けれどもしっかりと、押さえた。
「ふふふ、良いの。気にすることなんかないのよ」
そして細い指先は、再び息子の髪を撫でる。その手の感触に、ジャンは心地よさを思い出していた。
「ねえ、母ちゃん。もう一つお願い」
「なあに?」
顔は赤いまま、けれども今度は、はっきりと口にする。
「明日、おいらの髪を切っとくれよ」
「ええ、切ってあげますとも」
短くなったこの髪を、また撫でてあげたい。カトリーヌはそう思いながら、息子の顔を見る。
まだ少し頬を染めながら、ジャンもまた、母を見上げて笑った。

場所はどこなのでしょう。カトリーヌが引っ越したばかり家(ダニエル城近郊)か、パリのどこかの家か??
このお題は見た時から、この親子でやりたいなと思っていました。
ジャンの年齢って合ってますでしょうか。別冊アニメディアには9歳と表記されてたので、9歳数ヶ月と仮定しまして。
ダルタニャンがパリにやって来てから劇場版最終回までが2年位なので、「(もうすぐ)12になるんだよ」という意味で言わせましたが、どうなのでしょうか…計算が間違ってなければ…。 (2011.9.2)



≪27.酒場 29.傷≫